SGLT-2阻害薬は、日本では2014年から使われるようになった糖尿病の治療薬です。腎臓の近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を排出することで血糖を下げる作用があります。そのほか、体重減少効果があり、単独での使用は低血糖を来す可能性が低いと言われています。また、心血管イベントの発症リスクの高い患者において、心血管イベント(心不全)の発症を優位に抑制する事がわかっています。

SGLT-2阻害薬の作用メカニズム

 SGLT2の働きを阻害するとグルコース再吸収が減り、その分、尿糖の排泄が増え、高血糖を下げることになります。本来、SGLTは体内でグルコース(ブドウ糖)をはじめとする栄養分を細胞内に取り込む働きをします。SGLTの中でもSGLT2は、腎臓の「近位尿細管」という場所に限定的に存在し、血中のほとんどのグルコースを再吸収しています。

【SGLT2阻害薬の働きにより、ブドウ糖が血液中に再吸収されず血糖値を改善します】

SGLT2阻害薬の作用機序

SGLT2阻害薬の服用が推奨されるケース

 SGLT2阻害薬が、脂肪減少作用や尿糖排泄時の浸透圧利尿作用を有することから、血糖降下作用だけでなく体重減少や血圧への良い影響があるとされています。
日本では糖尿病患者の95%が2型糖尿病であり、食生活の乱れや運動不足により肥満を伴い、糖尿病に肥満症やメタボリックシンドロームを合併しているケースが多い事から、肥満傾向の若年〜壮年期の患者様がSGLT2阻害薬の良い適応になると考えます。
高血圧症を合併した2型糖尿病は、心筋梗塞や狭心症などの「虚血性心疾患」だけでなく心不全の発症危険因子ですが、EMPA-REG OUTCOME(※1)やCANVAS(※2)などの大規模臨床試験では、特に心不全を発症した2型糖尿病患者への有効性が脚光を浴びています。

処方にあたり、当院では基本的にインスリン分泌能や腎機能及び尿検査を実施しています。内因性インスリン分泌能(自分の膵臓から分泌されるインスリン)が極めて低下しているケースではインスリン療法やSU剤などの治療が必要な場合があるためです。
腎機能低下の場合や、高血糖・尿ケトン体陽性時は、糖尿病ケトアシドーシス(糖尿病の重篤な急性代謝障害)の発症リスクが高まる事がわかっており、患者さまの病態によって、ほかの薬剤やインスリン療法を選択する場合もあります。

※1 EMPA-REG OUTCOME: http://diabetes.ebm-library.jp/trial/detail/51506.html
※2 CANVAS: http://diabetes.ebm-library.jp/trial/detail/51706.html

【SGLT2阻害薬「エンパグリフロジン」を76週間にわたり単独投与した時の体重の調整平均変化量】

日本人2型糖尿病患者を含む国際的な大規模臨床試験「EMPA-REG OUTCOME」において、SGLT2阻害薬の単独投与における体重減少作用が報告されました
SGLT2阻害薬:エンパグリフロジンによる体重の調整平均変化量

SGLT2阻害薬の副作用や注意点

SGLT2阻害薬の使用は、日本糖尿病学会で以下に注意するよう示されています。

1.インスリンやSU薬などのインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意する
2.75歳以上の高齢者、あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する
3.多尿による脱水、特に利尿薬の併用の場合には注意する
4.発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する

実際の診察では、尿路感染症(膀胱炎など)の患者さまが多い印象です。
そのほか、体重減少作用はありますが、その反面、「筋肉量が落ちた」などを自覚する方が多いようです。
この様な場合は、SGLT2阻害薬使用にこだわらず、ほかの内服薬への切り替え変更なども含め、患者さまに適切な選択を心がけています。
SGLT2阻害薬はどうしても尿量が多くなる傾向がありますので、ご職業によっては(トイレに行きづらい環境下でのお仕事など)使用しづらいため、勤務状況や内容なども配慮して処方を考えています。

副作用かと思っても、自己判断で薬の量を調節したり、飲み忘れたりしないようにしましょう。
気になる事や不明な点があれば、まず医師におたずねください。

経過が良好な患者さまのケース
- HbA1c 9%台からが5%台にまで改善 -

Aさん(40代男性・自由業)は、他院の検査で2型糖尿病を指摘され、当院を受診されました。初診時は、身長159.7cm、体重76.7kg、HbA1c(ヘモグロビンA1c)が9.1%、随時血糖値が145mg/dL、血中Cペプチドが2.47ng/mLという状態でした。日々の食事についてお伺いすると、白米を中心とした炭水化物が多い印象でしたので栄養指導を実施し、検査で内因性インスリン分泌能が比較的保たれているのを確認したため、SGLT2阻害薬を処方しました。
通院後7ヶ月経った頃には、HbA1cが5.4%、体重は61kgへ改善しました。改善結果と共に運動療法へのモチベーションが上がったようで筋力トレーニングを自主的に開始され、現在はSGLT2阻害薬を中止し、BG剤(メトホルミン500mg)のみで非常に良い経過を続けています。

● ポイント

 ・ 2型糖尿病 インスリン分泌能が保たれている事
 ・ 壮年/肥満傾向であること
 ・ SGLT2阻害薬による尿量増加が許容できる職業を確認していること
 ・ 体重減少がモチベーションを高め、栄養指導による食事療法だけでなく自主的に運動療法を開始したこと

執筆者:

医療法人みなとみらい 東京睡眠代謝クリニック新宿 院長

黒田 直孝 先生